私たちはディナークルーズを満喫し、宿に戻った。アラエさんと水を買いに行こうと廊下に出ると、「ホテルより近くのキオスクのほうが安いよ」とたっくんが言うので一緒に出かけることにした。陽が落ちたカイロの街は、まるで夜明けのようなまどろんだ空気になっていた。
売店の間口は狭く、奥にガラスケース、右の壁際の木棚に調味料やスナック、左の壁際に飲料水のペットボトルがビニールに包まれて積み上げられている。商品ラベルにはアラビア語のロゴが印刷されていた。ボルヴィックやエビアンなどのブランドもある。店主の男性に声をかけて値段を聞いた。
1.5Lの水を1本買うためにエジプトの小銭を手のひらに広げて探す。慣れない国での買い物はたとえ少額であっても緊張する。バカにされるのも嫌だけれど、かと言って助けてもらわなければ何もできない。店主が必要なコインを指差して教えてくれ、無事に買い物を終えることができた。私は「シュクラン」と言って店を後にした。少し胸のあたりがホクホクした気持ちになった。
その後、たっくんが両替をするというので、一緒にメリディアンホテルに寄った。エントランスロビーは真紅の絨毯がふかふかして、天井でシャンデリアがきらめいていた。ここは完全なる高級ホテルだ。トイレに寄ると、日本で見慣れたスタイルで、思わずほっとした。日本を離れて3日しか経っていないのに、安堵感があふれてくる。思い出したのはドバイの空港で感じた違和感——とてつもなく高い便座だった。身長差が空間設計に如実に現れていて、思わず笑ってしまった。あれが確かに海外に来たんだと実感した瞬間だった。
宿へ戻る道すがら、散歩中の家族をいくつも見かけた。小学生ほどの子供もいるし、もっと小さな子を腕に抱えて歩く人もいる。カイロの人々は昼間の暑さを避けて、夜に外出するのかもしれない。物売りの子どもたちは、籠いっぱいのティッシュや小さなおもちゃを抱えて売り歩いている。車の往来の間を、人々はアイコンタクトと身振りだけで渡っていく。信号を待つ人はどこにもいない。私たちは現地の人についていくようにして必死に渡る。
ロバが野菜を運び、ラクダが気怠そうに座り、警官を背に乗せた馬が通り過ぎていく。そして人々は道端に座り込んでおしゃべりして、ちょっとしたピクニックまでしている。車がひっきりなしに行き交う、3車線の道路のすぐ横で。
カイロの道路はおおらかでなんでもありだ。そう、おおらかだ。雑で適当でカオスのこの街はおおらかなのだ。