#09 ハーン・ハリーリの狭い路地

ハーン・ハリーリの人混みを描いたスケッチ。

翌朝、空がうっすら明るくなって、でもまだ太陽が顔を出しきらない時間に、ホテルの窓から下を見おろした。ゆっくりと前進する清掃車が、前方についた2つの大きなブラシをぐるんぐるん回しながら、道路をまるごと水洗いしていた。この車が通り過ぎると、道端に捨てられた大量のゴミがきれいさっぱりなくなっていく。エジプトでゴミをゴミ箱に捨てる人はほとんど見なかったが、こうして徹底的に掃除している姿を見ると「きれい好き」の解釈にもいろんなかたちがあるのだと気づく。不思議な国だ。

この日もムスタファさんがホテルまで迎えに来てくれた。向かったのはカイロ最古のスーク、ハーン・ハリーリ。アル・フセイン・モスクの西側にある広場でバスが止まった。バスを降りると、道端にたくさんの人が座っていた。男性も女性もモスクの外壁にもたれたり、歩道の段差に腰をおろしたり。何かを待っているのだろうか。

ツアー参加者のひとり、リーダー(真面目そうな風貌から付いたニックネーム)が階段に座りこんでいるのが見えた。ムスタファさんがしゃがんで顔色をのぞいている。どうやら彼は食あたりになってしまったらしい。

するとムスタファさんは、どこからともなく白いコーヒーカップをを持ってきた。そこへレモンをぎゅっと絞り、彼に飲ませた。コーヒーとレモン。その組み合わせ、想像しただけでぎょっとする。きっとエジプトの食養生なのだろう。民間療法というのは土地によってさまざまで、そういうところが面白い。

広場では、カイロ大学日本語学科の学生6人が私たちを待っていた。このツアーのもうひとつのテーマ、異文化交流である。ムスタファさんが彼らを私たちに紹介した。紹介された学生のうち、4人の女性はヒジャブをまとっていた。オリーブグリーン、コーヒーブラウン、エジプシャンブルー、チェック地やマーブル模様。スカーフはするりとした手触りで透けるほど薄手で涼しげである。髪を隠すためのものというより、むしろその日の気分を彩るファッションアイテムのひとつに見える。ヒジャブって、こんなに鮮やかなものなのかと驚いた。

1人の女性はヒジャブをかぶっていなかった。理由を聞いてみると、彼女はキリスト教徒だからだと言う。最後に紹介されたのは、水色のポロシャツに黒縁のメガネの男性。短いバズカットがよく似合っている。私たちは凛としたたたずまいのヒジャブの装いにすっかり魅せられて、思わずスカーフを買いに行くことにした。

カフェの横の小道から、ハーン・ハリーリの路地へ入る。スークはどことなく薄暗い。頭の上から足元まで、あらゆるところに商品が並んでいるのだ。右側には手のひらサイズのピラミッドの置物やラクダのぬいぐるみが、ぎゅうぎゅうと並び、その上には幾重にも重なるビーズのネックレス。左側にはシーシャがひな壇状に並べられ、さらに奥には紫や青の華やかなカフタンを着たマネキンがずらり。頭上には、バラックのように渡された建材に丸いワラ細工の球がいくつも括り付けられている。

売り手と買い手がわらわらと狭い路地を行き交い、私たちはその流れの中を漂うように進んでいく。