その後、私たちは赤のピラミッドの内部に入った。赤のピラミッドは断面が二等辺三角形である。そして屈折ピラミッドを見て、メンフィスに移ってラムセス2世の巨像を見た。建物内部に横たわる形で保存されている巨像を、2階の回廊から見下ろした。大きかった。ほこりっぽく気だるい空気が流れる場所だ。そしてここでも私たちはゴミ拾いをした。ゴミはほとんど落ちていなかった。
そしてムスタファさんは、次に私たちをサッカラのカーペットスクールに連れて行った。建物の中に入ると、大理石の壁で囲まれた部屋はひんやりとしていた。長方形の窓があるものの、窓から日差しはほとんど入らない。暑さを避けるためなのだろう。色とりどりの絨毯が壁に掛けてある。床の上にも絨毯が広げた状態で積み上げられている。絨毯を織っている人もいる。横2.5mに高さ1.5mの木枠の中央に椅子があり、無数の糸を縦横に交わらせて模様を作り出している。階段を降りるとそこにも絨毯が山積みになっていて、他の観光客が商談を進めているようだった。大学生の私たちは誰も絨毯を買わなかった。
ようやく宿に戻るのかと思ったら、唐突にバスが止まった。ムスタファさんは休憩だと言っている。ここは舗装されておらず白い地べたの道端に大きな木が枝を伸ばして木陰を作っていた。その下に小さな敷物を敷いて地元の人らしき数人が座っている。ムスタファさんは彼らから小さな果実を受け取り、私たちに一粒ずつ手渡した。この果実はナツメヤシを乾燥させたもので、栄養価が高くエジプトではおやつによく食べられるものだ。ひと口かじってみると、とてつもなく甘い。保育園の給食でドライカレーに入っていた干しぶどうが食べられなかった記憶がよみがえった。喉を一回転させるようにうっとする気持ち悪さがこみ上げてしまう。周りのツアー参加者はおいしそうに食べている。私は食べ切ることができずにそのまま残りを手のひらで握りしめたままでいた。
彼らも小さな土産物を売っていた。このような土産物屋を私たちに紹介するとき、ムスタファさんは「ブラザー」がやってる店だからオススメだと言う。あらゆる場所に「ブラザー」が存在する。一体どれだけ家族が多いのだろうか。本当は家族ではないのに、私たちを安心させるために嘘をついているのだろうか。
私たちはようやくホテルに戻った。私は、ホテルのスーベニアショップをのぞいて少し時間を潰すことにした。今日もアフマドさんは陽気に話しかけてきた。どこに行ったのかとかいつまで滞在するのかとか他愛もない話をした。ふと、アフマドさんは娘のサラちゃんの写真を見せてくれた。10歳くらいの利発そうで彼のように人懐っこい雰囲気がある。家に遊びにおいでよとアフマドさんは言った。とても興味を引かれたが海外で会った人の家に遊びに行っていいものか迷いがあった。日程確認してみる、と濁してその場を離れた。