ひとしきり撮影を楽しんだ後、ムスタファさんは私たちをクフ王のピラミッドの中へ案内した。入口は人が1人ようやく入れる程度、幅50cm高さ140cmくらいの穴がくり抜かれている。この入口の先に薄暗い階段が下へ続いている。階段と言っても木の板に滑り止めをつけたようなもので、足元はおぼつかない。大量の観光客が列をなしてトンネルを歩いていく。まるで火災時の避難訓練のような光景である。背の高い欧米系の旅行者たちは大きな背中を丸めて歩いている。階段を降りたり登ったりして必死で前の人に着いていく。狭くて暑くて人が大勢いて息苦しくてほとんど記憶がない。急に列の歩みが止まった。そこには何もない空間が広がっていた。ただただ何もなかった。そこにいた全員が何もない空間で息を飲んだように何かを見つけようとあたりを見回していた。そしてやっぱり何もなくて、なんで必死の思いをして来たんだろうとまたがっかりした。
ギザのネクロポリスには4つのピラミッドがある。最も大きいものがクフ王のピラミッドでその次がカフラー王のピラミッド、その次がメンカウラー王のピラミッドで、小さな3つのピラミッドが並ぶのが王妃のピラミッドだ。カフラー王のピラミッドだけ、上部に建設当時の表面を覆っていた化粧岩が残っていて白っぽく見える。これらのピラミッドが建設されたのは紀元前2500年頃、古王国時代である。ピラミッド研究は考古学に属する。考古学というのは発掘する場所を決めると、数ヶ月にわたって掘り続ける、細心の注意を払いながら堀り続ける作業である。民族考古学の山口先生はポリネシアの専門だが、掘り続けると鬱になると言っていた。彼の授業はいつも面白かった。そしてその言葉が宙に浮いたように頭の中に思い出された。
私たちはさきほど来た狭い道を、また同じように必死の思いをしながら戻って外に出た。ムスタファさんが遺跡周辺のゴミ拾いをしようと、ビニール袋を私たちに配った。このツアーは遺跡保護をテーマのひとつにしているからだ。私たちはビニール袋を片手に太陽を白く照り返す地面を目を凝らして歩き回った。しかしゴミなんてほとんど落ちていなかった。代わりにせっかくだからと、砂漠の砂を袋に入れて持って帰った。そして次にスフィンクスの前に移動した。スフィンクスは本当に頭が人間で身体がライオンである。ピラミッドよりもずっと異様な存在感がある。「トリビアの泉」で観た通り、スフィンクスの鼻先にはケンタッキーフライドチキンがあった。キエちゃんと私は、スフィンクスの左右から頬にキスをするポーズで写真を撮ろうと決めて、よしみにカメラを預けた。よしみがファインダーを覗きながらもっと近づいてと言ったけれど、キエちゃんと私はもはやキスしそうな距離感に顔が熱くなってきた。結局、スフィンクスの両脇で恥ずかしさを堪えた横顔が2つ並んだ写真ができあがった。駐車場までの道に露天商のような土産物屋が並んでいた。店主たちは、私たちをみると「ヤマモトヤマ~」とか「モウカリマッカ?」と話しかけてくる。