翌日、私たちはギザのピラミッドに向かった。バスを降りると砂埃に白くかすんだ空と淡々と降り注ぐ太陽が待っていた。ピラミッドはあっさりと私たちの前に現れた。歴史のある神秘的で荘厳な古代遺跡は日常から遠く手の届かない場所にあるのだろうというありがちな期待を裏切り、宿から10分の距離にあった。まるでディズニーランドホテルの距離感である。
念には念を入れてと、私たちは日本から持ってきた日焼け止めをこれでもかと塗りたくった。長袖のパーカーを着て帽子をかぶり、使い捨てカメラを持った。ガイドブックには、防塵対応していないコンパクトカメラは壊れるし盗られるかもしれないから持っていくなと記されていて、この言葉に素直に従った。ここでラクダに乗って写真を撮った。4つのピラミッド群が背景にちょうど収まるフォトスポットである。ラクダを引く男性はローズグレイのガラベイヤを着ていた。ガラベイヤとは、長袖でくるぶしが隠れるほどの丈の長いエジプトの伝統的な服である。そして白いキャップを被ってその上に赤と白の千鳥格子のストールを巻きつけている。ラクダは鞍の周りに伝統的な織物とフリンジで飾られている。この布のパターンはエジプトというよりはベルベル系に近いような気がする。
ラクダはヒトコブラクダである。体毛は白灰色で短く、首がスッと伸びている。馬のように柔らかい、しかしもっと気怠そうな眼差しで人間を見て、大きな口を開けて威嚇したりする。7世紀、ビザンツ帝国の一部であったエジプトにササン朝ペルシアが侵入する。ヒトコブラクダはこのときにエジプトにもたらされた。ヒトコブラクダは暑さに強く平坦な道が得意である。アラブ人の地中海世界での拡大を待つまでもなく、北アフリカにヒトコブラクダは荷物や人を運ぶ家畜として普及する。歴史の表舞台に現れることのなかった人間の日々の営みを鮮やかに描き出した、フェルナン・ブローデル『地中海』における移牧に関する指摘だ。